秋分の日……。おりから今年いちばんの秋日和である。(ただし朝のうちだけだったが……)こんな日はきまって早起きしてしまう。たぶん生来の貧乏性なのだろうな。
朝のランニングもひときわ心地よかった。真夏から秋口にかけて、暑さののこっていた先週ぐらいまでは、走りが重かった。脚がうごいていなかった。今朝は不思議と躯がかるかった。
ランニング途上でふとおもいたった。奥多摩あたりまでゆくか。かくして朝食後、これといってあてもなくクルマをだした。青梅から奥多摩へ……。朝はやいせいだろう。渋滞もなかった。奥多摩湖を半分ほど周回して、ライダーたちが群れて走るあの奥多摩周遊道路へ……。
エアコンをきって、窓をあけて走る。いつも聴いているビーチボーイズのCDのうち、「僕らのカークラブ」をえらんで、おもいきってボリュームを少しあげてみた。まあ、そんなことができるのは山間の道路だけだろうな。
都民の森の交差点をすこしすぎたあたりからだったろうか。おやっと、おもわず眼をみはるようなドライバーのうしろについた。
車種はたしか日産のフェアレディー。まるで道路を這っているかのように、なめらかにすべってゆく。ゆっくりはしっているようだが、実際はそうではなくて、気がつくと車間がじりじりとひろがってゆくではないか。
よくみるとカーブでもほとんどブレーキを踏まない。それでいてセンタラインを踏むこともなく、キッチリをコーナーをすりぬけてゆく。
ブレーキランプが故障しているのではないか? 最初はそんなうたがいをもったが、そうではなかった。停車すべきところではちゃんととまる。
ゆっくりとはしっているようだが、のろのろしているというのではなくて、行くべきところではサッ……とすばやく動くのである。
奥多摩周遊道路から檜原街道へ……。武蔵五日市駅を左手にみて秋川街道へ、カーブの多い峠道はつづいたが、フェアレディー氏のハンドルワークには寸分のゆるぎもなかった。
ホレボレするような水際だった運転にためいきをつきながら、ぼくはすっかり夢中になっていた。かれのすりぬけた車軌をなぞり、ブレーキをふまないコーナリングを実習していたのである。そして気がつくと、いつしか青梅市内までもどっていた。
フェアレディー氏とは河辺あたりで別れたが、かれにしてみれば、きっといいめいわくだっただろう。うしろにぴったりつかれて、きっとウザイヤツ……と舌うちしていたにちがいない。
底がみえみえのバカバカしい振る舞いを「茶番劇」あるいはたんに「茶番」というのはご承知のとおりである。その由来は「茶番狂言」にある。
茶番狂言とはなにか? 下手くそは役者が手近な小物をつかって、おもしろおかしいパフォーマンスや話芸をやって、安っぽいオチをつける。江戸時代の末期に歌舞伎で流行ったというのである。
自民党の総裁選! 茶番劇といわずに何というのだろうか? 5人の候補者はそれぞれ自分に割り当てられた役どころを忠実に演じきっただけ。闇のフィクサーの書いた台本の筋書きをまったく逸脱することはなかった。
年末のレコード大賞の受賞者が、当日の審査員の投票をまつまでもなく、すでに何ヶ月もまえから決まってしまっているのと同じように、アッソウさんの当選は公示まえから既定の事実であった。
選挙をもりあげた浪漫派歌人のオマゴさん、和製ヒラリーを気取ったポテトチップスさん、総理大臣よりエラいと本気でおもっている大東京知事のムスコはん、さらにはクリスチャンでありながら軍事マニアの2世議員……。いずれもゴクロウさん……というわけで、それなりに手厚い褒賞にありつくのだろう。
いまや茶番の小道具になってしまった総理大臣に誰がなろうとまったく興味はない。もっぱらの関心事といえば、茶番でソウリの椅子を手にしたアッソウさんが総理大臣をどのように演じるのかである。茶番で総理大臣になったのだから、やはり演技も茶番に終始してしまうのか。それとも茶番を脱して、大向こうから「よう、宰相!」と声がかかるように大変身をとげるのか!
まずは総選挙でお手並み拝見である。あまりイチビって、くれぐれも、たとえば口害で墓穴を掘ってしまい、肝心の政策論争いぜんに敗着しないように……。他人事ながらやきもきしながら、それでいて固唾をのんで、心のどこかでハプニングを期待している。
ひろい休耕地に秋桜が一面に咲きみだれていた。群生する色とりどりの花のうえをわたってくるかすかな風が汗ばんだ躯には心地よかった。
爽やかな朝である。数日まえまで豪雨をもたらした空模様、あれは何だったのか。まるでウソのように晴れわたり、涼風がふきぬけている。ひさしぶりのランニング、気持ちがよかった。季節はいつしか秋もようである。
いつしか……といったのには理由がある。今年は春から夏そして秋への移りなど、まるで無縁の日常だった。まもってやらねばならない、かよわき生命によりそって、まる5ヶ月、ひところは午も夜もなかった。
晴れて解放されたのは昨日である。そして、一夜あけて今朝……。群生する秋桜をみて、秋なんだなあ……と、ふとわれにかえった……というわけなのである。
この夏、ほとんで外界から隔離されて、まさに冬眠ならぬ夏眠しているうちに、わが日本ではおおきな異変がおきていた。伝統的なシステムがふたつも崩壊していた。
ひとつは大相撲である。もはやなんでもあり状態になってしまったようである。朝青龍のお騒がせにはじまり、暴力・リンチ事件とつづき、さらにはこんどのドーピング疑惑にいたり、完全にトドメを刺されてしまった。
もうひとつは自民党による政治である。一国の総理大臣が壁にぶちあたって、あっさり政権を投げ出してしまう。率先して困難に立ち向かい、若い人たちの模範にならねばならないリーダーが、あっさりと尻尾を巻いて逃げ出してしまう。そんなテイタラクで日本の未来なんてあるのかね。
かくして総裁選という茶番劇がはじまり、候補者5人のうち誰かが跡目をひきつぐというわけだが、2度あることは3度ある……というから、またしても、どこかで「投げだし」て、3人目の無責任男になるやもしれぬ。
11月には解散・総選挙らしいが、そんな末期的症状のたそがれ自民党に、もし野党が負けるようなことがあれば、日本の政治も完全に息の根がとまってしまうだろう。だからといって野党とて信頼するに足るというわけではないのだが……。
いずれにしろ……。風わたる晩秋の総選挙で国民はどういう審判をくだすのか? それによって、国民は果たして「バカなのか、カシコイのか」、そして、この国のゆくえもはっきりとみえてくるだろう。そういういみでは、今年の秋は日本の近未来を決定すける分岐点になるのかもしれない。
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筆者が「見たこと」「聞いたこと」「考えたこと」を備忘録がわりにランダムに書き記してゆきます。自身の書く小説の舞台裏だけでなく、30年間追っかけている「駅伝・マラソン」のこと、仕事をはなれて、「競馬」や「競艇」についてのトピックやエッセイなど……。
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