昨夜、丸の内の東京會舘で第27回太宰治賞の授賞式があった。毎年この日に、まさに一年にいちど会える人が何人かいるので今年も行ってきた。
同賞は第14回(つまり小生の受賞したとき)以降、20年も中断している。主催する筑摩書房が倒産したからである。1999年から再開され、筑摩書房だけでなく三鷹市が加わって共催のかたちとなった。
もともと太宰賞の授賞式は、著名な作家や編集者、出版関係者が多く顔を見せ、いかにも文学者の集いという雰囲気だったらしい。けれども小生は不幸にもその時代を知らないのである。
他人の授賞式に出席したのは再会後の授賞式だが、三鷹市との共催となったせいだろう。当然のこととはいえ、雰囲気が変わり、お役人さんとギョウカイの人がやたらと多くなったように思う。文学者の集い…という雰囲気はすっかりなくなったしまった。けれども資金的なバックアップをすべてゆだねているのだから、これは、しかたがない。
ひとつ不思議に思うことがある。三鷹市のような行政が加わるということ、そうなると受賞者に与えられる賞金は税金から出ていることになる。市民の血税から捻出されているのである。
はたして、これでいいのだろうか?
文学というもの、太宰賞が対象とするような純文学的作品は、かならずしも、お行儀のいい世界ばかりを描くわけではない。端的にいえばもともとアナーキーなもの、ごく普通の社会生活に背をむけるスタイルをとるものもある。エロ、グロ、暴力……、素材としてはナンデモアリの世界なのである。
世間の常識に背を向けるような作品が出てきたとき、税金がつかわれても、それが文学的に優れているとして、容認できるだけの度量が行政側にも、税金を払う市民にもあるのだろうか。それらを排除する方向に進めば、文学のめざすところとは、およそ正反対の方角にいってしまう。そこのところが、いつも気になる。
今回の受賞者は東京在住の男性、いわば実験的な作品である。選評をのべた加藤典洋さんのスピーチがおもしろかった。
「わけのわからなさ」が、おもしろくて積極的に推したというのである。作品全体が、よくわからない、けれども、受賞に値すると思ったというのだから、聞いているほうは、もっとわからなくなってしまった。
その「わからなさ……」の実態が何であるか。たしかめるために、これから受賞作を読んでみることにする。
奇妙な現象がおこっている。
小生の著者に、山本八重(のちの新島八重)を主人公にした小説が2冊ある。『会津おんな戦記』(筑摩書房刊)と『新島襄とその妻』である。
後者は朝日放送創立35周年記念番組としてテレビドラマ化された作品でもある。ドラマスペシャル「女のたたかいー会津から京都へ」として1985年11月1日放映されている。2時間20分におよぶという現在では考えられない長時間番組であった。(http://www.tvdrama-db.com/drama_info/p/id-22308)
前者は八重の会津時代を描いたもの、後者は八重が兄をたよって京都にやってきて新島襄と結婚、ともに歩むものがたりである。
むろん両著ともに絶版になっており、街の書店で新本を入手することはできなくなっている。著者の小生も、気がついたら控えだけになってしまっていた。
市場にはなくても、著者のもとになら本があるだろう……と、ときおりたずねてくださる奇特な読者から問い合わせをうけるのだが、そんなときはAmazonの古本販売サイト「マーケットプレース」でどうぞ……と、ご案内することにしている。
同書はテレビドラマにもなり、わりあいよく出た本なので、マーケットプレイスには常時10冊以上ならんでいた。状態の良悪におうじて600円~1000円前後というのが相場であった。何を隠そう。著者の小生も手もとに本がなくなって2冊ばかり買ったことがあるのである。
ところが、昨日の夜、のぞいてみると、高価なコレクター向けの品(おそらく状態がすこぶるいいのだろう)の2冊(なんと2,970円と高い!)をのぞいて、すべて売り切れてしまっているではないか。
新島八重が13年の大河ドラマでとりあげられるという新聞報道(6/12)がなされてから、にわかに、なくなってしまったらしいのである。メディアの力とはすごいものだとあらためて痛感させられた。
古書サイトのインターネットサイト「日本の古本屋」で検索すると『新島襄とその妻』のほうは8点がラインナップされており、状態の良し悪しで600円から2,500円と、やはり高い品しかのこっていない。
もうひとつ「古書ー紫式部」では3冊がヒットした。これら11冊も早晩、姿を消してしまうことだろう。
『会津おんな戦記』のほうは、もはやインターネットによる古書も品切れになってしまっているのを知って唖然とした。
何とかしてください……なんて、熱心な読者に泣きつかれたらどうしようか。困ったことになったなあ……と、なんとも複雑な思いをしている。(笑)
こんなとき、襄先生なら、どんなふうにお答えになるのだろうか。いぢととっくり訊いてみたいものである。
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筆者が「見たこと」「聞いたこと」「考えたこと」を備忘録がわりにランダムに書き記してゆきます。自身の書く小説の舞台裏だけでなく、30年間追っかけている「駅伝・マラソン」のこと、仕事をはなれて、「競馬」や「競艇」についてのトピックやエッセイなど……。
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