死神は音もなくすり寄ってくる。コイツに取り憑かれた最後、ツキはたちまち落ちてしまう。どんなにツイていてもかれに逢ったが最後、たちまち急転直下、深い闇の中に堕ちてゆくのである。
誰が、何が死神であるか。あらかじめ分かっていれば、それはそれなりに対処のしようもあるが、たいていの場合は後になって、「そういえばアイツが死神だったんだ」と気づかされることが多い。そういうかたちでしか出没しないから、なんとも始末が悪いのである。
昨日、ひさしぶりに死神に逢った。競馬の話である。ぼくは競馬や競艇の当たり、外れ……については原則として日記やBlogに書かないことにしてきた。予想もほとんど書かない。たまにビッグレースのときのみ、予想ではなくて自分の買う馬券や舟券を明らかにする。書くときはかなり自信のあるときだ。しかし、投資金額は書かないことにしている。
しかし、負けたときのみ、備忘録として記録にとどめておくことにする。競馬や競艇の収支については、家計簿のように収支決算しないことにしているが、負けたときはやはり悔しさが残る。そこで死神に逢った記録としてとどめておこうというわけのなのである。
先週はあの武豊が死神になった。競馬を知らない人でも知っているあのJRAのナンバーワンジョッキー・武豊である。昨年の11月には通算3,000勝を38歳7ヶ月という史上最速で達成。重賞は250勝、G1は160も勝っている。いまや前人未踏の境地をゆく騎手なのである。
武豊の連対率(=連勝馬券にからむ確率)は2007年が37.2%、今年は36.3%、つまり3回に1回以上は、確実に馬券に絡んでいる。しかし1番人気の馬に乗ったときは約55%というから、その信頼性は驚異的である。 先週の土曜日も日曜日も武豊はメインレースでは一本かぶりの人気馬にのってきた。土曜日は阪神の11レース「仁川ステークス」、日曜日はG2の「阪神大賞典」である。
土曜日の仁川ステークスは、セイウンプレジャーでの出走だった。セイウンプレジャーはユタカが乗って断然人気とはいえ、いまひとつ信頼できなかったので、迷ったあげくぼくは同レースを買うのをやめにした。 結果的にいえば阪神を回避して、中山のメインで勝負したのが正解だった。セイウンプレジャーはスタート、道中ともにいいところなく、最後の直線に向かってもまったく伸びなかった。
日曜日は阪神11Rの「阪神大賞典」(距離3000m)、ユタカは実力馬・ポップロックに乗っての登場であった。オッズは1番人気で2倍見当だから、ここも断然の1番人気である。ポップロックは3ヶ月ぶりの出走、これが気にかかった。さらに騎手のユタカについては前日の負けっぷりが気にいらなかった。
だが、ユタカが1番人気で2日つづけて外すことはあるまい。まして騎手の腕がモノをいう長距離だ。前日の惨敗ぶりが最後まで気にかかったが、馬券は迷うことなく格上のポップロックから、複勝を厚めにして、単勝、馬単……と、合計で10,000円を投じたのである。
結果は……。ユタカが死神……だったと思い知らされた。ポップロックはいまひとつ伸びきれずにクビ差の3着に沈んだのである。かくして武豊は2日連続で1番人気で敗れた。まさかリーディングジョッキーが死神になろうとは夢にも思わなかった。まあ、女神になるときもあるのだから、しかたがなかろう。
死神はどこにでもいる。誰でもが死神になる。ウインズで声をかけてきた見知らぬ男のときもあるし、すれ違いざまに足を踏まれた男であったり、あふれるばかりの微笑で迎えてくれたサービスステーションの可愛い女の子さえも……油断できない。
そして……。死神におびえているぼく自身も、見知らぬ誰かさんにとってはとんでもない死神になる。いや、すでにして、もう、なっているかもしれないのである。
Takehisa Fukumoto's essay and column studio
2008-03-24
死神に逢った!
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このBlogは小説書きの福本武久が「京おのこ」としてmixiにアップしている日記を再録したものです。
筆者が「見たこと」「聞いたこと」「考えたこと」を備忘録がわりにランダムに書き記してゆきます。自身の書く小説の舞台裏だけでなく、30年間追っかけている「駅伝・マラソン」のこと、仕事をはなれて、「競馬」や「競艇」についてのトピックやエッセイなど……。
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